Say You!バックナンバー・コーナー

■ 学院長および講師からのメッセージ ■

『声優と演技E』 学院長・勝田 久

(2005.6.17 UP)
 劇作家・演出家菊田一夫先生を苛立たせた原因は何なのか。僕のような未熟な役者がウロチョロして目障りな点もあったであろうが、それ以上にベテランと言われる諸先輩方の身についてしまった演技にあった。
 東宝演劇部という所は面白い所で、そこに集った役者は、撮影所出身、新劇出身、他にも新派新国劇、歌舞伎、軽演劇と、出身がまちまちで、それぞれが異なった演技論を持ち演じている。

 菊田先生の演出は氏の目指す現代劇の舞台を創り上げる所にあった。形にとらわれず、人間の魂の叫びを伝える事を最高の目標としていた。氏の台本は、童話でも読むような心地よさがあり、あっという間に読み終えてしまう。ドストエフスキーやゴーゴリが好きという人が読んだら内容が浅くてつまらないと言うかもしれない。ところが、この台本に菊田演出が加わると、途端にドラマは脈打ち始め、登場人物のそれぞれが生きた人間としてぶつかり合う事になるのである。一週間足らずの稽古は、まさにその実験劇場であった。

 菊田一夫作並びに演出の「鐘の鳴る丘」は当時大変な評判で、東京公演は一ヶ月から三ヶ月へと延長されロングランとなり、更に大阪、名古屋、福岡と二ヶ月の地方公演も決まった。

 丁度一ヶ月を終了した頃、菊田先生が久々客席に見えて観劇。『だいぶ荒れてきたなぁ稽古をやり直すか」と呟いたその時、舞台上では見慣れない役者が演じている。
ボロボロの衣装を纏ったモク(煙草)拾いの老人が暗いガード下でモクを拾っては何やら細かな演技をしている。「あれは誰?」と菊田先生。「誰だと思います?勝田くんですよ。」と間島プロデューサー。「へぇー」と菊田先生。

(つづく)
2005年4月発行「Say You」第122号より抜粋

以降、続々登場予定!

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