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東京大空襲で廃墟となった夕暮れの街を、モク(煙草)拾いの爺さんがボロボロの服着て右に左にとヨタヨタ歩きながら吸殻を集めている。占領軍のGI(兵隊)が、捨てた高級煙草ばかりだから、全部バラして巻き直して売ればけっこういい値で売れるのだ。
古関祐司作曲のBGMが流れ、余計に爺さんの哀れさを誘う。客席はシーンと静まり返って声一つない。やがて舞台のかすかな光もフェイドアウト、静かに幕が下ろされた。
楽屋に戻ると菊田一夫先生がニッコリ、「勝田君、よくやったっ」。たった一言ではあったが僕にとっては最大の賛辞に受け取れた。これで僕の名は先生に完全に憶えてもらえた。それも嬉しかったが、菊田先生の狙う現代劇の目指す方向が、おぼろげながら掴めて来た事が嬉しかった。東宝のスタッフは小道具さんに至るまで良い人ばかり、「東宝大好き、ずーっと東宝で頑張るぞ!」と勝手に決め込んだが、どっこい世の中、そう甘くはなかった。
東宝大争議の勃発。以前から撮影所労組と会社側との対立は聞き及んでいたが、それが突如爆発し戦争のような騒ぎになってしまったのだ。労組が撮影所に籠城し、警官隊が装甲車まで勃負してそれを取り囲む。
東京公演で大成功を収めた我々は、名古屋、豊橋、大阪、京都、姫路、福岡と、四十日を超える地方巡業を続け、最終地神戸へ辿り着いていた。その中日(なかび)を明日に控えたその夜遅く、我々は宿の広間に集められた。そこで立ち上がった幹部俳優の声明を聞いて僕は驚愕した。「我々は撮影所のストに参加することにしました。明朝食事を済ませたら、各人自由に帰京して下さい。ただし交通費は各人負担です」
(つづく)
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