Say You!バックナンバー・コーナー

■ 学院長および講師からのメッセージ ■

『声優と演技J』 学院長・勝田 久

(2006.10.27 UP)

 1948年夏、終戦から三年経って、焦土と化していた新宿の街も、堀立小屋の食べ物屋が軒を連ね人が行き交い、賑わいを取り戻していた。

 男は元軍服の復員兵姿、女はモンペ姿が多かったが、中には最新の映画の画面から飛び出してきたような真っ白な中折帽子にスーツ姿のお兄さんやチャールストンでも踊りそうなお姉さんたちの姿もあった。

 歩道の隅には白衣を着た傷夷軍人がアコーディオンをかき鳴らし、街行く人からの投げ銭を待っている。

 そんな新宿の街ではあったが、ムーランルージュはいち早く再建されていた。表の大看板には、先月まで行動を共にしていた先輩俳優の名も出ていた。演目は新作「生活の河」。高鳴る胸を押さえて入場券を求め客席へ。ドラマは当時の焼け出されて、住む家を失った日本人の生活をそのままリアルに描き続けていく。涙あり笑いありで、庶民の哀感がそのまま伝わってきて、大いに共感を覚えた。菊田ドラマと一脈通じるものがあり、最近よく耳にする現代劇といえる作品であった。

 終焉後、先輩を尋ね業界の話を聞く。森繁久弥氏の件はまだ噂に過ぎないとのこと、どんな人なのかチラッとでもいいから拝見したかったのにーとちょっぴり残念。

 我が家に帰ると電報が届いていた。当時は電話を引くということは難事業で、申し込んでから一年か二年待たないと順番が来なかった。そんなわけで緊急連絡の場合は電報に限られている。

 「シキュウレンラクヲコウ、トウヤ」とあり発信者の電話番号が記されている。トウヤという名に覚えはない。とにかく指定された番号にかけてみる。「あぁ勝田君ですか、演劇プロデューサーの遠矢です。あなたの事は菊田先生から伺っています。早速用件に入らせていただきますが、私いま菊田先生の作品の地方公演を企画しておるんですが、是非ご協力お願いしたいんです、いかがなものでしょうか」

 「ハ、ハイ、ケ、ケッコウなお話で。ぜ、ぜひ……」突然のオファーに僕は緊張しまくって答える。翌日、少しおしゃれして、新橋の遠矢氏の事務所を訪れた。この人も森繁久弥氏と同じ満州帰りの演劇人であった。稽古は来週日曜日から始まるという。しかも稽古場は我が家から歩いて七、八分のところの小学校の体育館だという、なんと幸運。浪人中の身にはありがたい。まさに神の采配か。

 神が又もや僕にチャンスを与えてくれたのであろうか。
(つづく)

2006年1月発行「Say You」第127号より抜粋
以降、続々登場予定!
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