Say You!バックナンバー・コーナー

■ 学院長および講師からのメッセージ ■

『声優と演技M』 学院長・勝田 久

(2006.11.17 UP)

 昭和23年夏、東京は連日うだるような猛暑であった。その炎天下の日曜日、NHKの新人募集のテストが行なわれた。全国から押し寄せてきた応募者は数千人となり、NHK付近のホテルのホールを数箇所借り切ってテストは行なわれた。第一次テストは筆記。主として漢字の読み。阿鼻叫喚、魑魅魍魎、右顧左眄、臥薪嘗胆、甲論乙駁、五月雨、如雨露、などなど。それぞれの熟語の下の括弧内にその意味も併記せよとある。その数ある問題の中にたった一つ読めない熟語があった。こんな熟語はお目にかかったことがない。何かの間違いではないのか。読めないことが余りにも口惜しかったので、家に帰るやいなや国語辞典にとびつき早速調べてみた。あるあるその憎っくき文字は「三和土」、何とこれでタタキと読むのだ。あの玄関のタタキのことである。古来より玄関の土間は土と石灰と塩の三つを混ぜて硬い棒などで叩いて仕上げたようで、それで三和土と書いてタタキと読ませたらしい。江戸っ子はジョーク好きでクイズにしたらいいような言葉をたくさん残している。声優として仕事をするようになってから古い戯曲なども読むようになったが、やたらとこの三和土が登場する。時代劇の装置にはこの三和土は必ずあるといっていい。ものを知らない浅学の徒というものは情けないものだ。言葉を持って商売するものはどんどん知識を深め教養を高めていかなければ……と痛感。以来六十年近くもこのテストの一件を忘れたことはない。

 さて、NHKのテストの問題、次は上段に作品名、下段に作者名が列記してあって、それぞれを線で繋ぐ問題。源氏物語−−−紫式部、坊ちゃん−−−夏目漱石、鹿鳴館−−−三島由紀夫、方丈記−−−鴨長明、放浪記−−−林芙美子、といった具合に。次は映画、演劇の題名にフリガナを付ける問題。世情浮名横櫛、大仏開眼、十六夜清心。

 そして、ラストは小論文「これからの演劇」。一週間後この第一次審査の結果が出て、残されたものは百名程度となり、第二次審査へと進む。NHK本館の廊下に長い列をつくって順番を待つ。元来試験が楽しくてという性分のぼくとしては、ただ待っているだけというのは退屈なので、並んでいる受験生を先頭から最後尾まで観察してみたりしてみた。驚いたことに顔なじみが十名はいる。ぼくが学校と平行してレッスンに通っていた劇団の若手の人達が五人もいるではないか。美人コンテストに出場した方が良いのではという美人もいる。

 第二次審査の結果はすぐ知らされて、第三次へと進む。いよいよマイク前テストである。見わたすと受験生は三十人ほどに減っている。一人ずつスタジオに入り課題の短文を朗読したり台詞を演じる。初めてマイクの前に達人が多いようで廊下にいる段階から震えているのが伝わってくる。

 この日の帰り、一人一人に封筒が手渡された。ぼくの封筒には次の第四次テストの問題が入っていた。

 よく読んで理解してから演じて下さいと書かれてある。「ハハアン、脚本の解釈力を審査したいのだな」と察知できた。いよいよ次回が楽しみである。
(つづく)

2006年7月発行「Say You」第130号より抜粋
以降、続々登場予定!
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