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昭和23年夏、東京は連日うだるような猛暑であった。その炎天下の日曜日、NHKの新人募集のテストが行なわれた。全国から押し寄せてきた応募者は数千人となり、NHK付近のホテルのホールを数箇所借り切ってテストは行なわれた。第一次テストは筆記。主として漢字の読み。阿鼻叫喚、魑魅魍魎、右顧左眄、臥薪嘗胆、甲論乙駁、五月雨、如雨露、などなど。それぞれの熟語の下の括弧内にその意味も併記せよとある。その数ある問題の中にたった一つ読めない熟語があった。こんな熟語はお目にかかったことがない。何かの間違いではないのか。読めないことが余りにも口惜しかったので、家に帰るやいなや国語辞典にとびつき早速調べてみた。あるあるその憎っくき文字は「三和土」、何とこれでタタキと読むのだ。あの玄関のタタキのことである。古来より玄関の土間は土と石灰と塩の三つを混ぜて硬い棒などで叩いて仕上げたようで、それで三和土と書いてタタキと読ませたらしい。江戸っ子はジョーク好きでクイズにしたらいいような言葉をたくさん残している。声優として仕事をするようになってから古い戯曲なども読むようになったが、やたらとこの三和土が登場する。時代劇の装置にはこの三和土は必ずあるといっていい。ものを知らない浅学の徒というものは情けないものだ。言葉を持って商売するものはどんどん知識を深め教養を高めていかなければ……と痛感。以来六十年近くもこのテストの一件を忘れたことはない。 |
| 2006年7月発行「Say You」第130号より抜粋 |
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