Say You!バックナンバー・コーナー

■ 学院長および講師からのメッセージ ■

『声優と演技O』 学院長・勝田 久

(2007.02.17 UP)

 昭和二十三年十月、NHK研修生としての僕の生活が始まった。

 夏の頃からラジオ番組にちょくちょく出演するようになっていたので、玄関前に立ってももうどきどきしなくなっていた。初めてあの巨大ビルの前に立った時には足が震えたものだ。何しろ玄関前には腕にMPの腕章をつけた見上げるような大男の米兵が、カービン銃を肩にいかめしい顔をして立っていた。当時は我が国はまだ日本国ではなく、オキュパイド・ジャパン(占領下日本)であったからである。ただ一つの放送のキィステーションNHKは当然アメリカ軍GHQの管理下に置かれていたのだ。正面玄関は足の長い米軍将校やMPが出入りしている。だが僕は米兵恐れてなるものかと勇を鼓して正面玄関目指して一気に突入したものだ。MPがジロリとこちらを睨む。僕も睨み返す。あわやという一瞬、玄関内から飛び出して来たNHK職員に僕は取り押さえられた。「ここからは入れません、内玄関から入って下さい!」とこわい顔。そうであったか内玄関なるものがあったのかと、言われるままにそのビルの横手に回ると確かにそれはあった。日本人が出入りしている。女性も平気な顔をして出入りしている。

 納得して大股で内玄関に入っていく。「一寸待って下さい!」今度は背後から何者かにグッと腕を掴まれ引き戻された。バカ力のある奴だ。見れば制服制帽のデブ男。これは警官ではない守衛だなと睨みつける。「どちらへお出でですか?」薄笑いして猫撫で声で問いかけてくる。「どこって……本読み室ですよ、フ、フ、婦人の時間の……」

 婦人の時間なんて答えたのが悪かったのか、守衛は僕をジロリと睨む。「ここでお待ち下さい。いいですね!」念を押すとフロントまで行ってワラ半紙の束をパラパラめくって戻って来た。「ハイどうぞ!」とやっと局内に入ることが許された。

 そんな経験があったので、研修生として内玄関を通過する時には毎回守衛の目が気になっただがその後は何回内玄関を出入りしても呼び止められることはなかった。その筈である。紺色に染め上げられた僕の元国民服の襟には、もらったばかりのピカピカのNHKのバッヂが燦然と輝いていたからである
(つづく)

2007年2月発行「Say You」第136号より抜粋
以降、続々登場予定!
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