|
昭和二十三年十月、いよいよNHK研修生の生活が始まった。
仲間は男性五女性二の計七名。年齢は僕が丁度真中で二十二才。全員が大学やプロの劇団などで演劇に関わってきたいわゆる演劇青年ばかり。顔を合わせたら演劇・放送の話ばかりで遊びの話はゼロ。
我々に与えられた部屋は十五畳ほどのガランとした空室。椅子十脚と事務机一個が隅に置かれてあった。その机の上にはお盆と茶碗十個と急須が一つに無造作に置かれてあった。お勉強で疲れたらお茶でも飲みなさいという親心か……。あの戦後の国民挙ってスキッ腹を抱えて必死に働いていた時期に、こんな厚遇で若者を迎えてくれるところがどこにあるんだろうかと、しばし落涙−はしなかったけれど−、兎に角やるゾという気にはしてくれた。
研修生はお仕事はしなくてよい。ただお勉強をするだけでよいのだ。それで月給がいただけるのだ。感謝感激。研修時間は午前十時から午後六時まで、日曜日はお休みだ。
研修内容はNHK史から放送法、演劇史、演劇論、更に実技として演技、声楽からタップダンスまでとかなり幅広い。いささかゴッタ煮の感は否めないが、今にして思えば貴重な体験をさせてくれたものだ。多額の予算が組めるNHKならではの話だ。
講師陣は、主任講師が元NHK演出部長の和田精氏、築地小劇場で音響効果や演出を経験した後NHK大阪局に勤務、東京局に転勤後定年で退職された方、というよりも今の若い人達には今超人気のイラストレーター和田功氏の父君と言った方が分かってもらえるかもしれない。
和田講師の講義はまず日本語を知るというところから始まった。発音発声アクセントとト調音と研究が三ヶ月ほど続く。大学の音声学の先生やベテランアナウンサーの実践的なレッスンもあり、更には俳優座などの劇団幹部の指導による朗読や台詞のレッスンもあった。俳優座の演出家兼俳優の青山杉作先生のパイプをタクト代わりに振ってのセリフのレッスンで、セリフにはリズム・テンポ・トーンなどの音楽的感覚が絶対欠かせないものだということを知った。ただ文章の内容を知るだけではダメ、人間の心を伝えるためにはどうしても音楽的な流れが必要なのだ。
音楽といえばコーリューブンゲンのレッスンもあって参った。歌唱指導は芸大出の恐い先生で、毎回叱られた。もっと参ったのがタップダンス。何でこんなことまで学ぶのかと不満であったが、後にテレビ開局となり、ミュージカル番組に出演させられカメラの前でタップを踊ることになった時恥をかかずに済んだ。
とにかく研修生の学習は広範囲で盛り沢山で多彩であった。
(つづく)
|